2022.2.3親が認知症でも不動産を売る方法
はじまして、私は、現役で司法書士(10年)と不動産仲介(2年)の両方を行っており、認知症の親の不動産売却をサポートしている宮本赳宏(みやもと たけひろ)と申します。
『施設に入った親の介護費用の負担が重く、親の持っているお金が少なくなってきた』
『一人暮らしの親の認知症が進行し、仕事や家事もあり、自分では親の介護はできない』
など親の介護には、お金がかかるものです。
・月々の介護費用を捻出するために、親の家を売りたい
・施設の入所費用を工面するために、親の家を売りたい
そんなお悩みを持つあなたに、ぜひやって欲しいことは、最初に不動産会社ではなく法律の専門家に相談することです。
なぜなら、
そもそも勝手に認知症の親の家を売れない、
売るなら成年後見制度を使わなければいけないからです。
成年後見制度を使わずに進めると、相場よりとっても安く不動産会社に売って大損してしまったり、他の親族等から訴訟されて、売却代金を失うことがあります。
とはいえ、法律の専門家と言っても、誰を選べば良いのか想像つかないですよね。
そんな方のために、高齢者や障害者支援を専門に扱う弁護士や司法書士が所属している公的団体があります。
しかも、無料で相談できます(一部有料)ので、下記のHPに問合せしてみてください。
未払いの賃料収入などの訴訟トラブルがある不動産→弁護士の団体【高齢者・障害者総合支援センター https://www.nichibenren.or.jp/legal_advice/search/other/guardian.html】
訴訟トラブルの無い不動産→司法書士の団体【成年後見リーガルサポート http://www.legal-support.or.jp/】
目次
1 認知症の親の家は勝手に売れない。トラブルにもなることも。
そもそも成年後見制度とは、ものごとを判断できない本人に代わって、裁判所に選任された代理人が本人のために意思決定する制度です。
裁判所と聞くと、なんか怖い、自分が思うようにできない、時間がかかる、お金がかかりそうというイメージがありますよね
しかも、「『簡単に』不動産を売れないだろう」と思うかもしれませんね。
でも、成年後見制度を利用しないまま売却した結果、トラブルになった事例があるんです。
1-1 親の認知症により売買契約が無効になるポイント4つ
契約が無効になるポイントは、次の4つです。
無効ポイント | 説明 | |
1 | 中程度以上の認知症 | 道に迷う、買い物・金銭管理ができない、電話の応対ができない等又はそれ以上の症状があるか。 |
2 | 必要ないのに売ったか | 自宅を売却してまで、親の生活資金を確保する必要があるか。 |
3 | 売値が安すぎるか | 自宅の売値が、相場より安すぎるか。 |
4 | いまの住み家を失うか | 自宅の売却で、親が引っ越す必要があるか。 |
ポイントに上記のうち2つ以上当てはまると裁判所から無効と判断されやすくなるようです。
1-2 無効ポイントに2つ以上当てはまるとダメ(事例あり)
売主の年齢・認知症・属性 | 90歳
認知症 毎月100万以上 の賃料収入 |
85歳
認知症 |
不明
認知症(妄想、幻覚) |
自宅か? | 〇
(賃貸アパートと併設) |
×
(更地) |
〇 |
売値(相場よりいくら安い) | 20%以下 | 60%以下 | 不明 |
ポイント①
中程度以上の認知症 |
〇 | ー | 〇 |
ポイント②
必要ないのに売ってしまった |
〇 | 〇 | 〇 |
ポイント③
売値が安すぎるか |
〇 | 〇 | - |
ポイント④
いまの住み家を失うか |
- | 〇 | |
該当数 | 4 | 2 | 3 |
※ 東京地裁(H20.12.24)、大阪高裁(H21.8.25)、東京地裁(H21.10.29)の事例から作成
このように認知症の親の不動産の売却は、裁判トラブルになり契約の無効や損害賠償請求を受けることになります。
なぜなら、不動産を売却することは、「家を売りたい」という親の意思能力※1が必要だからです。
※1「意思能力」とは、法律用語で、自分の行為によってどのような法律的な結果が生じるか判断できる精神的な能力をいいます。 |
親の意思能力が確認できないときは、成年後見制度を利用して売却活動を始める必要があります。
でも、「私の親は認知症だったけど、成年後見を使わずに売れた」「お子様への委任状があれば売れる」とあなたの知り合いや不動産会社等から聞くこともあるでしょう。
ですが、周りからの情報を、ご自身にも同じ様に当てはめて判断するのは、危険です。
なぜなら、そもそも訴訟になるきっかけは、売却を依頼していない親族や専門家からの契約無効の主張です。
しかも、売った後に売買契約の無効を主張されることになります。
つまり、今は良くても将来は訴訟されて無効になる可能性は無くなっていません。
また、そもそも意志能力がなければ、委任契約自体ができないからです。
なので、将来的に無効になる可能性は残っていますので、ご自身だけで判断せずに、まず専門家に相談することをオススメします。
2 成年後見制度を使うときに【3つの注意点】と【近時の最高裁の方針変更】を説明します。
「親が認知症で意思能力が無いときに、成年後見制度を利用するのは分かったが、事前に知っておくべき注意点はあるのか」と思われることでしょう。
ここで改めて、専門家に相談する前に知っておくべき3つの注意点をご説明いたします。
2-1 親族が後見人になれるとは限らない
まず、一つ目は、「必ず子供が後見人になれるわけではない」ということです。
なぜなら、家庭裁判所が後見人を決めるからです。
家庭裁判所は、「子供が後見人として適任ではない」と判断した場合は、職業専門職(主に弁護士・司法書士・社会福祉士)を選任します。
※コラム
子供(親族)が適任ではないと判断される例でよくあるものは、以下の理由が多いです。
1.本人の財産が多い場合に、「成年後見制度支援信託・支援預貯金」を利用する予定がない
2.本人に賃料収入等の事業収入がある
3.親族が後見人になることに、他の推定相続人から反対されている。
4.親族と本人との利益が対立する事情(遺産分割、金銭の貸借等など)がある
5.親族が高齢である
6.親族が本人の財産を浪費してきた
※東京家庭裁判所と東京家庭裁判所立川支部が令和3年4月に作成した「後見・保佐・補助申立ての手引」11ページを参照。https://www.courts.go.jp/tokyo-f/vc-files/tokyo-f/kouken/110101
明確な基準がなく、もっぱら家庭裁判所の運用によるため断定はできませんが、これまでの家庭裁判所の実績から、ある程度の法則は想定できます。
ただ、【近時の最高裁の方針変更】について、平成31年3月18日掲載の朝日新聞にて、最高裁は、後見人にふさわしい親族など身近な支援者がいる場合は、本人の利益保護の観点から親族らを後見人に選任することが望ましいと提示しました。
厚生労働省HPより引用 https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_03991.html
つまり、裁判所が適任だと判断した場合は、親族が後見人になり易いです。
また、親族後見では、専門職によるサポートを受けながら後見事務を行うことがあります。
更に、本人の状況に応じて後見人への交替・追加も行います。
裁判所も、本人の身近な支援者の要望に答えられるように柔軟な制度運用に変えています。
2-2 単独で専門職が後見人に選ばれると、報酬がずっとかかる
専門職が後見人に選ばれると、本人の財産から家庭裁判所が決めた報酬が支払われます。
目安は、1,000万円未満の資産であれば、月に2~3万円程度です。
親の自宅を売却した後に、報酬を払う必要がなくなったという親族の意向で後見人を辞めてもらうことはできません。
成年後見は、意思能力が低下した本人を保護するための制度なので、自宅を売却した後であっても本人が生きている限りずっと続きます。
2-3 親の自宅を売却するためには、親の利益になるかどうかが大切である
親の自宅の売却をするには、裁判所の許可が必要であり、単に親族が親の自宅を売りたいだけでは許可されません。
ただし、「成年後見制度を使うと、自宅を売れない」という極論は、間違いです。
ここで、1-1契約が無効になるポイントで説明しましたポイント2~4の3点が判断基準になります。
つまり裁判所は、【自宅売却の必要性】、【売却価格の相当性】、【自宅売却による本人の居住環境に変化の有無】を重要な判断基準にして売却の許可を出します。
具体的には、「月々の介護費用を捻出する必要に迫られている」「親が施設から戻る可能性は無く、維持管理費だけが重い負担になる」など自宅の売却がいま必要で、かつ、親の利益になるかどうかがポイントです。
つまり、『親の利益になるかどうか』が重要です。
3 成年後見を使った不動産売却に強い不動産会社を見つけるために取るべき方法
それでは、成年後見制度を使った親の自宅売却に強い不動産仲介会社を選ぶために、オススメの方法をお教えいたします。
3-1 成年後見が得意な弁護士・司法書士経由で不動産会社から査定を取り寄せる
認知症の親の自宅売却では、相場より安すぎる価格で売却しようとしても、裁判所から売却の許可が出ません。
そのため、成年後見が得意な弁護士・司法書士に不動産会社からの査定を依頼すると、相場に合った価格で売却してくれる不動産会社を見つけられます。
また、専門家と不動産会社が連携して、売却活動を進めてくれるので、あなたがそれぞれと打ち合わせして手間や時間を取られることもありません。
結果、法律の専門家から紹介された不動産会社と売却活動を行うことで、相場に合った金額で手間や時間の負担なく売却することができます。
3-2 自分が独自に探した不動産会社からも査定を取り寄せる
成年後見が得意な弁護士・司法書士から不動産会社を紹介してもらうだけでなく、自分でも不動産会社に査定依頼をしましょう。
なぜなら、不動産の査定額は、不動産会社によってことなり、数百万円の差がつくこともあります。
査定額は最初の売出価格であり、成約価格ではありません。
査定額の高さだけで判断すると、買い手がつかないままになり、時間が立つほどに値段を下げることにもなります。
このように複数の査定書を取り寄せることで、相場感を身につけて、不動産会社を比較できる材料を集めましょう。
3-3 不動産会社の提案から自分に合う会社を選ぶ
実際に担当者との話してみることで、査定額の説明や法律の専門家との打ち合わせも担当者自身が対応してくれるかなど成年後見制度を使うことの理解があるかを見ましょう。
ここで、気を付けて欲しいことがあります。
中には成年後見制度を使わずに相場より安すぎる売値で自社への買取を勧めてきて、安く買いたたかれてしまうこともあります。
成年後見制度を使わず売れることを期待して、不動産会社の買取を安易に選んでも、のちのちに売買契約の無効を主張されてお金を失うことに繋がります。
この手順で進めることで、認知症の親の不動産売却で失敗しなくなるでしょう。
ちなみに当事務所は成年後見業務と不動産仲介の両方を行っています。バラバラに相談するのが手間がかかる・1つの窓口で両方対応して欲しいと感じるようであれば、ぜひ当事務所にご相談ください。
まとめ
認知症で意思能力が無い親の自宅を売るとき
① 成年後見制度を使わずに進めると売買契約が無効になる
② 親の自宅売却の成否は、親の利益になるかどうかである。
③ 成年後見制度を利用するだけでは、自宅の売値は下がらない。
④ 法律の専門家経由で不動産会社の査定書を取り寄せる
⓹ 自分自身でも査定書を取り寄せて、④の会社と比較検討する。